帰ってきて郵便受けを開ける。そこに楽しいものは入っていますか。一日の疲れを忘れさせるような、明日が楽しくなるようなものは。あるのは請求書、見知らぬDM、不動産のチラシ、でも、その中に一通の友達からの便りがあったら。リクルートメディアコミュニケーションズ(RMC)でチーフを勤める竹渕渉さん(32)は「おしゃべりの小部屋」という小冊子を定期的に自分の友人達に投函している。「常々、人を考えてるの。誰かが喜んでいる顔を見るのが一番幸せ」という。私はその小冊子を受け取ったとき、嬉しさ、驚き、わくわくする期待、何か自分の知らない世界への招待状が届いた感じがわき上がった。(文責:渡辺タケシ)
「おしゃべりの小部屋」は2008年1月に30号を迎えた。99年の元旦に創刊。多い時は月刊で発行している時もあったが現在は創刊号と同様元旦のみの発行になっている。内容はその年のプライベートなトピックス、ファッション、音楽、映画に関する事。それを記事と写真で綴っている。「ファンクラブ通信的なもの」だ。
発行者は竹渕渉さん、竹渕優さん(双子の兄)。「ピチカートファイヴ、松田聖子が大好き」という竹渕さんの心は正真正銘の乙女だ。洋服を着ても身体のラインがキレイに見えるのは着る洋服を選ぶセンスが研ぎすまされているからだろう。加えて、「海が好き」という通り、残暑の残る9月にこんがり焼けた小麦色の肌はとても健康的で元気な印象を与える。
創刊の発端は友人達の「自分宛の楽しい郵便が来ない」という話からだった。「当時、ピチカートとか聖子とかいろいろなファンクラブに入っていたし、好きな(洋服の)ブランドのDMも届くし、毎日郵便受けを開けるのが楽しみだったの」。「ドキドキした気持ち」で開ける郵便受けの感覚を友人にも教えて上げたい気持ちで記念すべき1号は年賀状もかねて発送された。「友達の親も含めて“小部屋”に興味を持ってもらえたの。起こったらいいなと思ってたリアクションが本当に起こったの」。初回30部だった発行部数は今や150部に至っている。
「流れに乗って生きてきただけ」だという。小部屋を創刊した1999年は写真屋でアルバイトをしていた。創刊号の「小部屋」はA3の紙を8分割したマッチ箱のような写真集と制作秘話を載せた冊子、カレンダー、シールがおまけについたおもちゃ箱のようなものだった。その後、写真屋のアルバイトを辞めた。次の仕事を探そうと思った矢先にゴミ箱にタウンワークの制作の仕事を見つけ、即応募したのが今の仕事の始まりだった。仕事での成長と「小部屋」のクオリティーアップが並行する。「仕事を通じて人に伝えるとは何かっていうのを学んだから、それが小部屋にも成長の過程として現れてると思う」。技術的にもマッキントッシュの導入、手書きからパソコン作成への移行、イラストレーター、フォトショップの利用によりカラフルで読みやすい紙面へ成長していった。
今や自身はチーフ、“小部屋”はB5フルカラー印刷の冊子になっている。「今の業務はミッション、ソリューション、って言葉で仕事を要求されるけど、チームのみんなの不安を解消して束ねたりすることが自分の役割だと思っている」という。「仕事は非常に感覚的に捉えてる。広告には全然興味がない」というのは「誰かの幸せや喜ぶ顔を思って行動を起こす、そんなシンプルなエネルギーでできる仕事がやっぱり大切」だという仕事の根底を押さえての発言だろう。技術や方法は改善されても人を喜ばしたい心は変わっていない。
写真屋でアルバイトをする以前はセツモードセミナーに通っていた。「セツ先生(長沢節/セツモードセミナー開校者)に教えてもらった事は本当に大きかった」。当校は非常にユニークな学校だ。入学試験はなく、くじ引きでの入学選考(現在は先着)、廉価な授業料。ファッション、イラスト業界に様々な人材を輩出している。「セツ先生に、美しい事には全く害はない」と教えられた。「美しい事を求めようとする事は骨が折れる事だけど素晴らしいことだって」。誰でも自分の美学を持っている。しかし、それを維持して行くことは非常に困難なことではないだろうか。
セツ先生に「あなたは黒い服を着るのをやめなさい、って言われてから最近までは ギンガムとかタータンとか柄物や派手な服ばかり着てた」。ただ、そういう格好をしていると非常に目立つ。時にはまったく竹渕さんを知らない人から理不尽な対応をされた経験もあるという。また、会社でも自分の意見を貫く事は難しい時がある。自分がいいと思う事を他人がいいと思うとは限らない。ただ、「『自分が幸せ、それでいい』と思う事を純粋に追求する喜びを知ったら、責任とかつきまとうけど、戻れない」。周りの人たちもそんな竹渕さんの存在が気持ちいいのだろう。
「会社の後輩で自分みたいになりたいって言う子もいる。苦労するけど楽しいよ、って言ってる」。最近は「黒い服も着たい気分。昔はつまらなく見えたけど、いまは色々な黒が見えてとても新鮮」という答えには自身の中の変化が垣間見えるかもしれない。
興味がないものが全て「幸せ」、「美しい」ではないのかと言ったらそうではない。「興味がわかなければそれは時期じゃないってこと」。もしかしたら、いま分からない方向にも自分の美意識に一致するところが見つけられるかもしれない。それは他人の自分に対しての考え方もそうだ。「単純にキレイなものはキレイ。美しいものはただキラキラしているだけでそれを見る目を持っているか持ってないかだと思う。そういう事を小部屋を通じて気づいたり、取り入れたりしてもらいたい」。
「おしゃべりの小部屋」の発行自体、それは美しい事ではないだろうか。単純に人を喜ばせたい、自分の喜びを分かち合いたいという動機。人は人に影響を与えて生活する。
薔薇が薔薇であることに罪がないように、人が自分の美学を貫く事には罪はない。竹渕さんの美しさは剥がれ落ちないだろう。それは、お化粧みたいに塗られたものではないから。それは、求める事によって内面から溢れるものだから。
【略歴】1976年5月15日生、神奈川県横浜市出身、東京都在中、横浜市立戸塚高等学校→セツモードセミナー→フリーター→RMC【星座】おうし座【血液型】AB型【家族構成】母・姉・兄(双子)【趣味】水泳、写真、登山、自然に触れる【好きな食べ物】カレー【嫌いな食べ物】酢豚【お気に入りスポット】神奈川県葉山市一色海岸【感謝する人】母【好きなタイプ】落ち着いていて優しい人【嫌いなタイプ】嘘をつく人、暴力的な人、ケチな人【子どもの頃の夢】歌手












