「自分のことをマイナーだと思っている、全ての人へ」

「あなたは、ふつうの人ですか?」。
現代においては、価値観の数だけ“ふつう”はあり、個人個人でその解釈にもギャップがある。つまり、誰もがマジョリティ(多数派)であり、マイノリティ(少数派)な存在になりうる。
『東京ふつうの人新聞』とは、そんな“ふつうの交換不可能な個人”を紹介していく、まったく新しいスタイルのWEB新聞です。そうすることで見えてくる、現代の「ふつうの人を再定義」していきます。

赤ん坊 渡辺綾音さん

最近、ハイハイを覚えたばかりだ。それ以前は寝てばかりだったので後頭部には髪が生えていない部分がある。性別は女の子。赤ん坊は一歩一歩、その世界を広げていく。ハイハイによって最近の綾音さん(0歳7ヶ月)の行動範囲はベッドから部屋全体に広がった。これから、歩き、走り、自転車に乗り、車に乗り、飛行機に乗り、もしかしたら、宇宙船にも乗れるのかもしれない。無限の行動範囲の可能性を持つ彼女の父母は彼女を17歳の時に生んだ。去年の8月だった。(文責:渡辺タケシ)

東京都幼小中高心障性教育研究会の2002年“児童生徒の性意識・性行動調査”では性交経験率は高一女子25.5%、高二女子40.9%、高三女子45.6%、また、高一男子24.8%、高二男子33.2%、高三男子37.3%だ。また、現在、日本の10代の出産は年間16000人~21000人、10代の中絶は30000件だという。中高生の性の乱れへの嘆きは様々なメディアから聞く事が出来る。今回の出産も“乱れ”の結果と言われても仕様がないだろう。家族からしてみればテロみたいなものだ。二人だけで解決できる問題では当然なかった。

父母ともに同じ高校の同窓だった。二人は高校の委員会を同じくする事で親しくなる。2007年1月、妊娠が発覚した。両家の家族を含めた家族会議の結果、本人たちの「産みたい」という強い希望を尊重し、家族は全面的にサポートする形で出産にこぎつけた。当然、母親は高校を中退する結果になった。お腹が大きくなった状況では学校に通えない。父親は、今後の収入面を考えて、せめて高校だけは卒業させるという方針のもと高校通学を継続。妊娠、出産が学校に知れた場合、通学、また卒業が危ぶまれるという配慮で、学校、また、生活地域には事実がなるべくもれないように心がけた。

この春めでたく父親は高校を卒業した。卒業までの間、母親は母方の実家で暮らし、出産後のベビーカーの散歩は幼児を隠すように外出し、父親の方も実家で暮らし、母親の家に行く時は両親の車の後部座席で毛布を被っていた。父親は今後、夜間の大学に通いつつ昼間に仕事をし、家計を支えていく考えだ。

出産年齢は遅くなる傾向にある。90年代は20代の出産が多かったが、2000年代に入ると30代の出産が20代の出産を追い越している(※)。理由は様々あるようだが、一番は経済的なものに落ち着くと思う。一番支出の多い教育費を含め、生活費全般を子どもが独り立ちするまで試算すると2000万円ほどかかるという。結婚後に必要な年収は500万円〜600万円と考えている人が多い(※2)のも先立つ支出を考えてだろう。この考えを念頭に置くと出産が30代に移行するのもわかる。産みたくても産めない状況もある。上の年収も理由の一つになるだろう。体質的な面で授かることが出来ない家族もある。

現代の出産観からいっても綾音さんの生い立ち、というか生まれは普通ではない。ただ、中絶すること、出産すること、比べた場合、子どもが生まれるという事の方が基本的にハッピーな事だ。幸いにも支える事に前向きな姿勢を示す家族もいる。

もし中絶の方向をとっていたら母親の身体には、また精神にも一生消せない傷跡が残っただろう。綾音さん自身の“これから”もなかっただろう。インタビュー中、綾音さんは何度も笑ってくれた。(もちろん話せないので具体的な考えを聞く事はできません。インタビューと言い張る事をお許しください)。その笑顔は世の中で一番、楽しくて、きれいで、否定的な思いなど抱かせる余地のないものだった。

普通に生まれるというのはどういうことだろうか。理想的な、という風に考えれば結婚していて、安定した収入がある上でということだろう。そして、普通に育つとはどういうことだろうか。育つ、という事を考えると父親、母親も現在18歳。成長過程であり、青春をまっしぐらする年代と言ってもいいのではないだろうか。17歳での出産を体験した今、彼らは世間から普通ではないと言われる状況にあると思う。

だが、例えば10年後、綾音さんが10歳になり、小学校5年生になる時期に両親は28歳だ。まだまだ、人生の可能性の多くを残している年齢だと思う。その時、彼らは仕事をして、子供を育てている普通の状態に戻れるのではないだろうか。そして、二人の両親(綾音さんの祖父母)もその事を願っているのではないだろうか。

当然、綾音さんにしてもそうだ。生まれと育ちは関係がない、というか、関係させる必要はない。私は綾音さんが普通に育ってほしいと願う。別に特別な才能がなくても、多少、不細工になったとしても。「普通」というのは大きな寛容力を持った言葉だと思う。個性が尊重される時、普通は否定的に使われる場合もあるが、普通になれるということは誰にとっても大きな希望なのではないだろうか。

綾音さんの名前は母親がアヤ(綾)という言葉を使いたいという希望に音楽好きの父親がネ(音)をつける提案をして命名された。あまり深い意味はなかったとのことだが、素敵な名前だと思う。

いろいろな音を聞くだろう。音は人になぞらえても、また、出来事になぞらえても、本人になぞらえてもいいと思う。様々なものが綾を作って、音が出来る。綾音さんが素敵な音になることを心から願いたい。

アンパンマン カタカタカスタ
座右の品

カタカタカスタ
(アンパンマン)


投げたり、くわえたり、振り回したりしていました。(著者談)

プロフィール

【略歴】2007年8月11日生、東京都在住、東京都出身【星座】獅子座【家族構成】父・母・祖父・祖母×2・叔父×4・曾祖父・曾祖母×2


※ 出典/厚生労働省“人口動態統計年報” ※ 2出典/オーネット“ことぶき科学情報”

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