「何も考えていない」といいながらも、意外とブレのない人だ。
安濃葉子さん(24)は現在新人コピーライター。まだまだ駆け出しで大きなことを任されたりはしないが、会社案内や学校案内を製作する会社でコピーライターのアシスタントとして働いている。「自分の考えたコピーが少しでも使われたり、ちょっと褒められたりするだけですごく嬉しい」。葉子さんはそう話す。(文責:富永玲奈)
どうやら彼女は、大きな夢を語るだけ語って具体的には何も考えていない、というタイプではなさそうだ。小学校の頃から作文や小論文が得意だった。けれどそれを仕事にしたいと考えたことはなく、そんな事が仕事になるとも思っていなかった。中学、高校時代は部活に没頭し、将来のことについてはやはり「何も考えてなくて漠然と普通に働くと思っていた」という。多くの人が苦労する大学受験も経験せず、本人曰くラクしてエスカレーターで大学に進んだ。
そのような葉子さんは大学生活で、どこのサークルにも属さず、大学でできた友人は4年間でたった1人だけというが、そんなの関係ないといわんばかりに大学云々を飛び越えて、独自に交友関係を広げていったところが彼女の面白いところだ。何も考えていないわりには受身ではない。マイペースだが、行動的。そんな言葉が彼女には似合う。高校時代に夢中になった作家・山田詠美の世界から派生した人々と知り合い、ゲイの友人たちと恋愛の悩みを共有するかと思えば、年上のお姉さまたちと仲良くしてみたり。彼女はそんな日々に浮かれはしゃいでいるだけの女子大生とはどうやら少し違いそうだ。
「目標を立てないと何もしないな」と思いつき、「1年に1回、新幹線と飛行機に乗る」という変わった目標を立て、実行した。(新幹線は国内旅行、飛行機は海外旅行を意味する)。「旅で得たもの? ないよ、観光だもん」という身もフタもない返事のあと、彼女はひらりとこう答えた。「どこに行っても私がやってることは全く変わらない。現地の人だって、日本人が日本でしているように生活してるだけだし、特別な感じはなくて、結局どこにいても人間一緒」。
ついでに、自分は普通の人だという葉子さんにとって「ふつうの人」とはどういう人かを聞いてみた。「私は、その他大勢のうちの一人で、芸術家とか、奇抜な才能を持った人は普通じゃないと思うけど…」。自分は自分の思う普通を生きていくだけ。葉子さんからはそんな姿勢が感じられる。
就職活動で面接のネタになることも見込んだこの「1年に1回、新幹線と飛行機に乗る」という目標であったが、実際就活で葉子さんはどうしても入りたかった1社しか面接を受けず、そこが落ちるともう就職活動そのものをやめてしまった。大学4年間でも、将来については「考えてなかった」。やはり、ともまさか、とも思える答えだ。
このように他人や現実に大きな期待をしていない彼女だが、そんな現実に文句をつけて御託を並べることもなければ、悲観的に嘆くそぶりもみせない。彼女は普通に、自分の目で見て感じたことを言い、思ったことを実行しているのである。これはこれで、やりたくても誰もがそう簡単に出来ることではない。
大学卒業後、派遣社員やフリーターを経て雑誌『編集会議』の主催する「編集者・ライター養成講座」を受講した。たまたま渋谷駅を歩いていたとき、貼ってあったこの講座の広告ポスターを見たのがきっかけだったという。昔から文章を書くのが得意だったことを、葉子さんは思い出した。ちゃんと授業に出席し、卒業制作も提出した。そこでの経験を生かして制作会社にコピーライターとして採用され、現在8ヶ月が過ぎようとしている。
会社は少人数で、人間関係も交通の便も悪くない。しかし葉子さんはなんだか不安だという。自分に能力があるのかもわからないし、仕事に自信もない。「ずっとこの仕事を続けていくか正直わからないけれど、何をするにしても職歴は必要だから」。コピーライターという職種の持つ派手な響きとは対照的な、ドライとも謙虚ともいえる本音がこぼれた。原因がそれだけかは分からないし、うまく言えないけれど、「なんだか、不安」。最後に彼女は、「尊敬する山田詠美はこんなようなことを言っているの」と教えてくれた。
「『すべてのことは的確な言葉で言い表すことが出来る』。つまり表現できないことはないっていうことだから、私もいつか、あらゆる状況を言葉で表せる人になるために、今は言葉蓄積の修行中」。
「表現できないことはない」。そう信じて彼女は今日も、自分の状態のみならず、コピーライターとしても的確な言葉を探している。不安も多いだろうが、時間をかけて行き着いたその仕事。
思い通りにしたいという思いと、確信できる自信がなく、不安という気持ちが錯綜する、20代特有の不安定な脆さを表す「好きにさせてよ、守ってよ」という座右の銘。彼女を表現するのに、これ以上的確な言葉は見当たらない。何かあったらできる限りの手助けはするから、駄目になる寸前まで好きにやればいい。まだ若いのだから。
【略歴】1983年8月30日24歳 東京都杉並区出身 同区在住 杉並区立和田小学校→文化女子大学附属杉並中学校→同高等学校→同大学文学部英語英文学科→派遣社員→ブランク→某制作会社の駆け出しコピーライター【星座】乙女座【血液型】A型【家族構成】父母妹弟【趣味】散歩【好きな食べ物】ビスコ【嫌いな食べ物】柿【お気に入りスポット】新宿御苑【尊敬する人】山田詠美【座右の銘】好きにさせてよ、守ってよ【好きなタイプ】うるさくない人【嫌いなタイプ】しつこい人【子どもの頃の夢】美容師












